睡眠不足が前頭葉の機能にどんな影響を与えるのだろうか

引用:
Effects of partial sleep deprivation on prefrontal cognitive functions in adolescents.
Sleep and Biological Rhythms. 2022:20;499–508 

 

まとめ

背景と目的

 睡眠は、肉体的、精神的な回復に重要でありことが知られています。ただ、作業記憶などの前頭葉に関連する睡眠不足の影響はあまり知られていません。この研究では、視空間作業記憶、処理速度、短期視覚記憶など、部分的な睡眠不足が前頭葉の認知タスクに影響を及ぼすかどうか調査しました。

方法

 18人の大学生を対象とし、4泊連続で行動や幾つかの認知機能、反応速度、記憶などを試すテストを行ないました。睡眠制限期間(6〜6.5時間/夜)と睡眠延長期間(10〜10.5時間/夜)を設け、それぞれの環境で変化が出るか調査しました。

結果

 ワーキングメモリのパフォーマンスのみが、睡眠延長期間よりも睡眠制限期間で統計的に低いことが判明しました(p < 0.05)。単純な注意、絶え間ない注意、執行機能、認知の柔軟性に関するパフォーマンスに大きな違いは見つかりませんでした。

結論

 この研究により、前頭葉に基づく認知機能に関し、睡眠時間の制限は、特に作業記憶に悪影響を及ぼすことが示されました。特に、青少年の視覚的な作業記憶と戦略的思考スキルは、慢性的な睡眠不足の影響を受けやすいかもしれません。

所感

 今回の研究は、特に睡眠障害などのない健康な大学生を対象に、敢えて睡眠不足にしたり、あるいは逆に十分に睡眠をとった環境に置くことで、視覚的な認知機能、短期記憶などの変化が起きるか・・・ということがテーマでした。実際に、睡眠不足になっている時に、「あれ?何しに2階に来たんだっけ?」というようなことが起きたりしませんか?あるいは、いつもならばパソコンの画面をパッと一目見て、なんとなくその画面の記憶が残るものですが、疲れている時は妙に資料の内容が頭に入ってこないといった経験はありませんか?もしかしたら、それは睡眠時間が足りていないサインかもしれません。

 睡眠と記憶の関係性については、すでに様々な研究がなされています。例えば作業記憶は睡眠と深い関係があります。テニスでサーブの練習をしたり、サッカーでシュートの練習をした時に、十分に睡眠をとることで、肉体の動かし方を整理し、脳が記憶するということが知られています。あるいは、学校で勉強をした時に、その思考回路や単純な数字の記憶などについても、睡眠が重要な役割を担っていることが示されています。

 コスパ、タイパと言われる忙しない世の中ですが、睡眠時間をしっかりとるのが最もコスパの良い学習法と言えるでしょう。

文責
副院長 小野 容岳