Sleep is of the muscle, by the muscle, and for the muscle.

 みなさまこんにちは。猛暑もひと段落して、徐々に秋の移ろいを感じる季節になりましたね。
良い睡眠をとる上で、ひんやりとした気候であることは重要な要素です。きっと皆さんの体もよりスムーズに睡眠を取れるよう変化してくるでしょう。

 さて、本日は睡眠と筋肉に関するletterをご紹介したいと思います

 Sleep誌に掲載されたletterですが、とても力強いタイトルですね。Sleep is of the muscle, by the muscle, and for the muscleというタイトルです。実はこれ、今は亡き. J. Allan Hobson先生という睡眠医療、特に脳神経領域におけるパイオニアであった方の発表に対するアンサーでして、Hobson先生は"Sleep is of the brain, by the brain, and for the brain"と表現しておりました。こういった時間を超えて論文で応え合う関係はなんだか知的かつドラマティックで素敵ですね。アーティスト達が楽曲や小説で関係し合うような、そんな関係のように思います。もちろん、その大元となるのはリンカーン大統領の"government of the people, by the people, for the people"という民主主義の原則を説いた演説ですが、欧米の論文はこういった言葉の力をうまく利用したものが多いような気がします。

 さて、話が逸れてしまいました。Hobson先生は、睡眠は脳のための生理現象であると解明しました。一方で、Brager先生は、睡眠は筋肉のための生理現象であると応えています。これらは全く矛盾しておらず、どちらも正解というのが現在の睡眠医療におけるスタンダードな理解です。

 睡眠によって知識や経験が脳に記憶される一方で、筋肉や臓器が回復を図るということが明らかになってきました。今回のletterでは、下記のような点について言及しています。

  • 急激な睡眠不足に対応するのに、筋肉が必要である。
  • 睡眠は、神経筋接合部の恒常性維持(正常な状態を維持しようとすること)に重要な役割を担っている。
  • 一方で、関節や筋肉のこわばりや痛みは睡眠の質を下げる。
  • ヒトの知的・肉体的パフォーマンスを維持するのには睡眠時間の確保が必須である。

 本邦においては、本来成人がとるべき睡眠時間(6-8時間/日)を下回ってしまう方が多いという課題があります。私自身、睡眠診療専門の外来で多くの患者さんとお会いしますが、仕事、通勤、家庭など様々な要素で十分な睡眠時間を確保できない方はとても多いです。ただ、中長期的にご自身の健康やパフォーマンスを考えると睡眠時間を削るのはあまり得策ではありません。慢性的な睡眠不足がある方は、せっかく健康のために運動習慣をつけた方も、その効果が減ってしまったり、あるいは回復に時間がかかるようになってしまいます。少々医学的な説明からはずれてしまいますが、私個人で行なっている日々の時短術なども外来でアドバイスできると思いますので、睡眠に関してお困りのことがあればお気軽にご相談ください。睡眠医療のプロフェッショナルとして、皆様の睡眠をサポートいたします。

 

横浜呼吸器クリニック副院長 
小野 容岳