いびきに対するレーザー治療ってどうなの?
皆様こんにちは。副院長の小野容岳です。
最近神奈川産業保健総合支援センターでの講演や、首都圏の企業向け講演で睡眠に関するレクチャーを行っているのですが
やはり当院の睡眠外来と同様、いびき、睡眠時無呼吸症候群に対するレーザー治療の関心が高いようです。
医学全般に共通して言えることですが、治療もお薬も、基本的に良いところと悪いところがあり
治療を受ける患者さんにとって、メリットが大きいのか、怖いデメリットはないのか、という視点で情報を精査する必要があります。
今回のコラムでは、いびきに対するレーザー治療に関して分かりやすく解説してみたいと思います。
レーザー治療だけで"無呼吸"は治る?
最近、いびき・睡眠時無呼吸に対するレーザー治療が話題になることが増えました。
SNSやインターネットを見ると、
- マスク(CPAP)を使わずに治る
- 簡単な施術で無呼吸が改善する
といった印象を持たれる方も多いかもしれません。
しかし、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、決して「のど(咽頭)だけの病気」ではありません。
あごの形や舌の大きさ、扁桃腺、呼吸をする力、眠っている間の筋肉のゆるみなど、さまざまな要素が組み合わさって起きる病気です。
実際に当院の外来を受診される患者さんも、のどはしっかりスペースがあるけれど、顎が小さいケースや
あるいは閉経を迎えた女性が、プロゲステロン(女性ホルモン)の量が減ることで無呼吸になりやすくなっているなど
様々な原因が隠れています。
のどだけへのアプローチではちょっと不十分というのが、なんとなくわかってきますよね。
1. 睡眠時無呼吸は「のど」だけの問題ではありません
睡眠時無呼吸は、眠っている間に
- のどの奥が狭くなる・ふさがる
- 呼吸が止まる/弱くなる
ことを繰り返す病気です。
その原因として、例えば次のようなものがあります。
- 太り気味で首まわりに脂肪がついている
- 下あごが小さい・後ろに引っ込んでいる
- 舌が大きく、あおむけで寝ると舌が奥に落ちやすい
- 扁桃腺や軟口蓋(のどちんこの周り)が大きい
- もともと呼吸のコントロールが敏感すぎる体質
- 寝ている間に、のどの筋肉が極端にゆるみやすい
つまり、原因が一つではなく、「体の構造」と「体質」の両方が関係する病気です。
ちなみに、日本人を含むアジア圏の人々は、もともとこの空気の通り道となるスペースが狭いため
欧米の方に比べてわずかな体重変化や顎の構造によっていびき、睡眠時無呼吸が起きやすいと言われています。
ある研究によれば、アジア人のOSAの40%程度は肥満症を伴っていない、つまり正常〜少しふくよか程度の体型であると
論じているものもあるのです。
睡眠外来で色々な患者さんとお会いしていると、確かにこの調査と、主観的な印象は一致します。
BMIで言えば25程度と、肥満ではない体型の方が、重症閉塞性睡眠時無呼吸症候群でした、というケースは意外と多いのです。
そしてその方は、顎が小さめであったり、舌が厚かったりするのです。
2. レーザー治療とは何をしているのか?
いびき、睡眠時無呼吸に対するレーザー治療は、主に
- 軟口蓋(のどちんこのまわり)
- のどの粘膜
にレーザーを照射し、「引き締める」「ハリを持たせる」ことで、いびきや無呼吸を減らそうとする治療です。
イメージとしては、
のどの粘膜に熱を加え、タンパク質を変化させて、
少し縮ませ・固くすることで、のどの形を変える
というものです。
ここがポイント
- のどの「形」を変える治療であり、呼吸のコントロールや筋肉の働きを整える治療ではありません。
- 舌が重力に従って落ちてくる(舌根沈下)へのアプローチはできません。
そのため、のど以外の要因(下あご・舌・体質・薬剤・飲酒)が大きく関わっている方には、十分な効果が期待できない場合があります。
例えば…
- 下あごが小さい・後ろに引っ込んでいる方
→ のどを少し引き締めても、根本的には下あごの位置が原因 - 舌が大きく、舌の根元が奥に落ちてしまう方
→ 軟口蓋だけを治療しても、舌の沈み込みは残る - 呼吸のコントロールが敏感(ちょっとした変化で呼吸が止まりやすい)体質の方
→ のどの形を変えるだけでは十分ではない
このような場合、レーザー治療だけに期待してしまうと、「思ったほど良くならない」「かえって悪くなった」と感じる可能性もあります。
3. 「元に戻せない変化」と「むしろ悪化するリスク」
レーザー治療は、メスで切る手術と比べると「優しそう」に見えるかもしれませんし
CPAP治療に比べれば煩わしくないと感じると思います。
実際には、のどの粘膜や軟口蓋に“熱の刺激”を与えて形を変える治療です。
その結果として起こりうるのが、
- 瘢痕(はんこん)=きず跡による引きつれ
- のどの奥が逆に狭くなってしまう
- 飲み込みに違和感が出る
- 口が乾きやすくなる
- 声の感じが変わる
といった変化です。
一部の研究では、
- レーザーによる手術のあと、無呼吸の回数(AHI)がむしろ増えてしまった人が一定数いる
- のどの瘢痕によって、新たな狭い部分ができてしまい、息苦しさや違和感が長く続く
といった報告もあります。
そして重要なのは、一度変わったのどの形は、基本的には元に戻せないという点です。
あとから「やっぱり元に戻したい」と思っても、完全に以前の状態に戻すことは難しくなります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する治療のGold Standardは、大まかに分けると重症の方はCPAP、軽症の方はマウスピースとなります。
これらの治療の共通点として言えるのは、体に薬もメスも入れないということです。
もちろん見方によれば、根本解決ではありません。あくまで使用した時に無呼吸が改善するということになります。
一方で、やってみて合わなければ、そこでまた立ち止まって考え直すことができるのです。
CPAPで言えば、導入中に2週間程度使用をやめれば、完全に元に戻ると言われています。
そのほか、扁桃や喉の構造が無呼吸に影響を与えている場合、耳鼻咽喉科・頭頸部外科の先生方にご依頼し、外科手術をお受けいただくことも一手です。
ただ、これらの手術にもメリット・デメリットがありますので、それぞれご専門の先生が、手術すべきかどうか冷静に判断してくださいます。
また、最新の治療デバイスとして、埋め込み型舌下神経刺激療法というものもあります。これは、のどの筋肉を引き締める電気刺激装置を
のどから胸にかけて埋め込み、睡眠中に使用する治療法です。
2025年時点でこの治療を実施できる医療機関は、大学病院などに限られておりますが、今後より患者さんにとって
ストレスの少ない治療法が開発されていくことを願っています。
4. ガイドラインや公的な立場はどう見ているか
睡眠医療に関する米国や日本の専門学会では、
- CPAP(シーパップ)
- マウスピース(口腔内装置)
- 適切な手術(扁桃の手術や顎の手術など)
が、睡眠時無呼吸の基本となる標準治療とされています。
一方で、レーザーを使ったのどの手術(昔からあるレーザー手術を含めて)は、
- 無呼吸の回数をしっかり減らせるというデータが十分ではない(減らせたという報告もあるが、数やバリエーションが十分でない)
- 中には、かえって悪くなってしまう人もいる(レーザー治療後に40%程度いびき、無呼吸が悪化したという報告がある)
- 瘢痕による後遺症(違和感・狭窄など)が問題になっている
といった理由から、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群の標準治療としては勧められない」という立場です。
日本の保険診療でも、
睡眠時無呼吸に対するレーザー治療は標準的な保険診療の枠組みには入っておらず、
実際には自由診療で高額な費用がかかる治療として行われていることが多いのが現状です。
5. レーザー治療が「まったくダメ」というわけではありませんが…
ここまで読むと、
「じゃあレーザー治療は絶対に受けてはいけないの?」
と思われるかもしれません。
実際には、
- 主な悩みが「いびき」である
- 検査で中〜重症の睡眠時無呼吸が否定されている
- 内視鏡検査で気管の異常が除外できている
- CPAPやマウスピースなど標準治療の必要性が低い、あるいは治療に耐えられない
- リスクと限界を十分理解した上で、それでも希望している
といった、ごく限られた症例では選択肢の一つになり得る可能性はあります。
ただし、その場合でも、
- 事前にきちんと検査(簡易検査や睡眠ポリグラフ:PSG)を行うこと
- 施術後にも無呼吸が悪化していないかを検査で確認すること
- 「治る」というよりは「いびき・症状の軽減」が目的であること
などを、あらかじめ睡眠医療の専門スタッフから説明を受け、ご納得されることが重要です。
7. 受診を検討されている方へ 〜まずは正確な診断から〜
大切なのは、治療法から入るのではなく、「まずご自身の状態を正確に知ること」です。
- そもそも睡眠時無呼吸があるのか
- あるとすれば「軽症」なのか「中等症・重症」なのか
- 原因は「体重」「あごの形」「舌」「扁桃」「体質」など、どこに強く関係していそうか
これらを、問診・診察・検査(簡易検査やPSG)で丁寧に評価していきます。
そのうえで、
- CPAP
- マウスピース
- 生活習慣や体重の見直し
- 必要に応じた手術 など
エビデンス(医学的根拠)とガイドラインに基づき、最も安全で効果的な方法を一緒に考えていくのが、睡眠専門外来の役割です。
まとめ
- レーザー治療は、のどの形を変える治療であり、睡眠時無呼吸の多様な原因すべてを解決するものではありません。
- 研究レベルでは「いびきが軽くなった」という報告はありますが、無呼吸の回数(AHI)や長期的な健康リスクの改善については、まだ十分なデータがありません。
- 一部では、瘢痕によるのどの狭窄や、無呼吸の悪化が報告されており、変化は基本的に元に戻せません。
- 国内外のガイドラインでは、CPAP・マウスピースなどが標準治療であり、レーザー治療は睡眠時無呼吸の治療としては推奨されていません。
レーザー治療の広告を目にして不安になったり、「手術すればマスクが不要になるのでは?」と期待される方も多いと思います。
当院では、まずは検査で現状を正確に把握し、そのうえで最適な治療方法をご提案することを大切にしています。
「自分にレーザー治療は合うのか?」「CPAP以外にどんな選択肢があるのか?」など、気になる点があれば、どうぞ一度ご相談ください。
参考文献
- 日本呼吸器学会 睡眠時無呼吸症候群(SAS)診療ガイドライン2020. 南江堂, 2020. (一般社団法人日本呼吸器学会)
- 日本循環器学会 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン(JCS 2023 Guideline on Diagnosis and Treatment of Sleep-Disordered Breathing in Cardiovascular Disease). 2023. (一般社団法人 日本循環器学会)
- Littner M, et al. Practice parameters for the use of laser-assisted uvulopalatoplasty: an update for 2000. Sleep. 2001;24(5):603–619. (PubMed)
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