熱帯夜を乗り越えるには!?


 皆さんこんにちは。横浜呼吸器クリニックの小野です。実はSNSで、先日友人からある質問をもらいました。

 「夏場って、室温を何度にしたらぐっすり眠れるの?」

 大事な質問ですね。最近の日本の夏は本当に暑く、熱帯夜(夜間の最低気温が25℃以上の日)も珍しくありません。まず、理想的な睡眠環境は①静かで②暗く③ひんやりとしていることが重要と言われています。つまり、音、光、温度という要素があるわけですね。その中で、今回は室温について掘り下げてみましょう。

<今回学ぶこと>

  • 良い睡眠をとる上で、理想的な室温
  • 熱帯夜を乗り切る工夫

 

 それでは、室温について考えてみましょう。人間は、あまりに高温や低温の環境だと、覚醒時間が増加し、ノンレム睡眠やレム睡眠が減少すると報告されています。研究によってばらつきはありますが、夏季であれば概ね室温26〜27℃を目安に調整し、その上で寝具を用いて微調整すると良いでしょう。例えば肌触りの良いコットンや、パイル生地なども良いですね。直接体に触れるパジャマは、肌触り、速乾性が重要です。夏場でしたら、掛け布団がわりに少し厚手のタオルケットなどを使ってみても良いでしょう。また、同一温度条件であれば、湿度が高くなると覚醒時間が増え、深睡眠が減少すると報告されています。理想的な湿度は40〜60%と報告されており、これを目安に室内の温度や湿度を測ってみましょう。また、お住まいの地域の地理的特徴によっては、除湿機を併用しても良いかもしれません。

 そしてもう一つの工夫として、扇風機の上手な利用方法です。扇風機を直接体に当てて寝てしまうと、気化熱によって体表面の温度が下がり、過度に体が冷えてしまいます。冒頭でお話しした通り、良い睡眠には「適温」というものがありますので、冷え過ぎも当然良くはありません。そこで、高温多湿な日本の夏では、程よく体周りの汗や蒸気を逃がし、空気を循環させるというのも重要な工夫です。ではどうするかと言いますと、冷房を弱目につけておき、扇風機を壁向きに(あるいは、体を背にして)設置してみましょう。そうすると、直接風が当たることはありませんが、そよ風のように体の周りの空気が流れていきます。このそよ風のような、ゆったりとした空気の循環が丁度良いのです。ただ、エアコンって好き嫌いがありますよね。機械の冷気が苦手という方もいらっしゃいます。高温高湿環境はどうしても寝苦しくなってしまうので、例えば隣の部屋で空調をつけて、扇風機で冷気を運ぶという手もあります。幼少期の環境や好み、ライフスタイルなども影響しますので、ご自身の中でリラックスできる環境作りをしてみましょう。

 ここでまた新たな疑問が湧いてきます。それは、「タイマーで調整した方が良いのか、つけっぱなしの方がいいのか」という疑問です。結論から言うと、私は「つけっぱなしの方が良い」と考えます。と言うのも、夏の都心部では、未明3時ごろに気持ちばかり気温が落ちて、夕方から朝にかけて殆どの時間が至適温度以上になっています。先にキンキンに冷やしておいたり、未明にエアコンが作動するように設定するという手段もありますが、おそらくどこかて室温が上がる時間帯が出てくるでしょう。過去の研究で明らかになった通り、我々人間は思ったよりも睡眠中の温度の変化に敏感で、室温が動くたびに体温調整機構が働いたり、無意識のうちにタオルケットを剥がしたりしています。そういった体の室温に対する反応を考えると、ある程度温度を一定にしておく方が無駄な体力の消耗を避けられる可能性があります。また、巷で隠れ熱中症なんて言われますが、熱帯夜において、夜間エアコン不使用が原因と思われる熱中症の事例は大学病院でしばしば経験しています。熱中症は腎機能障害や意識障害、最悪の場合命に関わる病態ですので、防ぐための対策は十分に考える必要があります。

<今回のまとめ>

  • 室温が26〜27℃になるよう温度設定をする。
  • 湿度が40〜60%になるよう、必要に応じて除湿機を併用する。
  • 風量、寝具で微調整する。肌触りと速乾性が大切。
  • 扇風機は体に当てず、部屋の空気を循環させる。
  • 夜のエアコンは弱めでつけっぱなし

 

 地球のために節電するのは大切な心がけですが、健康あっての世の中です。文明の力をうまく使いながら、熱帯夜を乗り切ってみましょう。そのほかにも細かな工夫やライフスタイルに合わせたアドバイスもできますので、睡眠に関してお困りの際は、かかりつけの先生や当院へご相談ください。



<参考文献>

・Bach V, Telliez F, Libert JP. The interaction between sleep and thermoregulation in adults and neonates. Sleep Med Rev.2002;6:481-92

・Buguet A. Sleep under extreme environments: effects of heat and cold exposure, altitude, hyperbaric pressure and microgravity in space. J Neurol Sci.2007;262:145-52

・Haskell EH, Palca JW, Walker JM, Berger RJ, Heller HC. The effects of high and low ambient temperatures on human sleep stages. Electroencephalogr Clin Neurophysiol.1981;51:494-501