Social Jetlag(ソーシャル・ジェットラグ )とは

 Social Jetlagとは、名前の通り社会的な時差ボケです。時差ボケというと、飛行機で長距離移動をした際に感じる眠気やだるさのことを示しますが、”Social”という言葉がつくと、全く別の意味になります。2006年にドイツの時間生物学を研究されているTill先生らが提唱した概念で、「社会的制約(仕事や学校、家庭など)がある平日の睡眠と、生物時計に一致した制約のない休日の睡眠との差によって引き起こされる”平日と休日の就寝・起床リズムのずれ”」を指します。つまり、仕事や家庭の都合で平日は睡眠不足になり、休日にそのダメージを回復しているような状態です。すると、睡眠時刻、起床時刻、総睡眠時間が平日と休日で大幅にずれ、毎週時差ボケを起こしているという事です。

 皆さんもこんな経験はありませんか?我々の睡眠診療外来で、先日ビジネスマンの方からこんなご相談を頂きました。

「平日はどうも忙しくて帰宅が20時近くになって、夕飯、お風呂を済ませて仕事の支度をしてからベッドに入ると、大抵12時過ぎなんです。通勤に1時間強かかるから、6時過ぎには起きて出社して、睡眠不足の頭をコーヒーでしゃっきりさせて、なんとか仕事を頑張っているんですよね。金曜夜には晩酌して一週間の疲れを労って、土日は少し寝坊してまた月曜日という感じで、特に月曜はキツいんです・・・。」

Curr Biol. 2012;22:939-43 supplemental tableの一部を改変

 



 もちろん睡眠の事だけを語るなら、平日の睡眠時間をもう1時間くらい追加で確保して頂ければ・・・という思いはあるのですが、住まいや業務量、それぞれのキャリアプランなど様々な要因で生活リズムは決定されますので、なかなかこちらの介入は難しい事が多いです。では、土日の睡眠はどうでしょうか。金曜の晩酌を取り上げたくは無いですが、体が疲れた時こそ睡眠時間は重要です。ただ、この方のように平日と休日の睡眠・起床リズムが大幅に崩れてしまうと、毎週体が時差ボケを起こしてしまいます。

 対策としては、起床時刻を平日・休日関係なく一定にするのが重要です。ただ、休日や休日の前の晩は少し時間に余裕が持てるはずなので、できれば深酒は避け、早寝することで睡眠時間を確保すると良いですね。平日に負った借金を返すように、土日でぐっすり眠るのです。もし睡眠のリズムを戻すのが難しいのであれば、土日に少し体を動かし、肉体的な負荷をかけることで早寝できると良いですね。

 さて、そういったご説明をしますと、「睡眠薬とか使わないんですか?」とご質問を頂きます。最もなご質問ですよね。睡眠診療を行う外来で、ここまで睡眠薬のお話は一言も触れていません。それにはある理由があります。

 睡眠診療を行う医師の共通認識としてあるポリシーですが、「睡眠薬は緊急避難として用いるものである、根本的に睡眠を妨げる障害物を見つけ、除去するのが重要」という考えです。もちろん様々なご病気や社会的背景により継続的に睡眠薬を内服されている方は多くいらっしゃいます。これは様々な治療や調整、対話の結果としてたどり着いた投薬ですから問題はありません。ただ、もしまだ睡眠薬を服用されておらず、睡眠についてお悩みであれば、まずはご自身の生活や考え方と向き合って、より健康になるにはどうしたら良いのだろうか?と考える必要があります。我々は睡眠診療のプロとして、そのお手伝いをいたします。問診し、必要に応じて検査のご提案をし、その上でサポートとして睡眠薬が必要であれば適量を処方しますし、日常生活の工夫で改善の見込みがあれば、そのアドバイスをします。外来診療を行う上で、お薬を処方するのは簡単です。電子カルテでポチポチとクリックすれば出せますからね。けれど、それでは一向に患者さんの生活は健康に近付きません。我々の仕事の目標は、患者さんが健康になることですので、回りくどくても真っ当な医療を提供したいと考えています。

  睡眠でお悩みの際は、まずご相談ください。皆さんが少しでも健康に近付けるよう、伴走者としてサポートいたします。

引用文献

Curr Biol. 2012 May 22;22(10):939-43