睡眠時間確保の重要性
touwakai「最近、よく眠れていますか？」
我々睡眠診療医は、しばしば患者さんに問いかけます。
睡眠時間を確保できていること、睡眠環境を整備できていること、心身の安全を感じていることなど、様々な要素が整っていないと、この問いかけに対してなかなか「はい」と答えることは難しいかもしれません。また、現代社会においては、多様な働き方に加えて複雑な業務とそれに伴う大きなストレスを抱えながら日々生活されている方が多いように思います。そんな中、健康を維持する上で睡眠が重要な要素であることは言うまでもありません。いくつかの論文を交えながら、睡眠の重要性に関してお伝えできればと思います。
睡眠は健康の基本要素ですが、多くの人が十分な睡眠をとれていません。National Sleep Foundationは、成人に対して1晩に7～9時間の睡眠をとるよう推奨しています。しかし、米国での調査によると、成人の3分の1近くがこの目標を達成していないことが分かっています。また、日本における調査では、成人の平均睡眠時間は7時間42分で、さらにこれは減少傾向にあると報告されています。(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-001.html) では、睡眠時間が減ることが、どういった形で我々の健康を蝕むのか、学んでいきましょう。
睡眠不足による健康への影響として最もよく知られているのは、肥満です。睡眠不足は、食欲を増進させ、脂肪の蓄積を促進するホルモンバランスの乱れを引き起こし、最終的に体重増加につながります。ある研究によると、睡眠時間が6時間未満の人は、7～9時間の人に比べて肥満になる確率が27％高いという結果が出ています。睡眠時間が短くなると、レプチン(食欲抑制ホルモン)の分泌が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)の分泌が増えることが示されています。徹夜で仕事をした後、なんだか無性にハイカロリーなものを食べたくなったことはありませんか？これは、内分泌科学(ホルモンに関する医学)の側面から見ると、ある種素直な体の反応であるとも言えます。
糖尿病もまた、睡眠不足に関連する病気の一つです。慢性的な睡眠不足は、体の細胞がインスリンに反応しにくくなり、血糖値が高くなる「インスリン抵抗性」と関連があるとされています。睡眠時間が6時間未満の人は7～8時間の人に比べて2型糖尿病の発症リスクが9％高いと言う報告もあります。さらに、睡眠不足は心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中など)のリスクも高める可能性があります。睡眠は血圧の調節に重要な役割を果たしており、慢性的な睡眠不足は心臓病の主要な危険因子である高血圧につながる可能性があります。睡眠時間が6時間未満の人は、7～8時間の人と比べて、冠動脈疾患を発症したり死亡したりするリスクが48％高いと報告されています。つまり、睡眠不足は健康を害する大きな要素という事ですね。
睡眠という生理現象は、時間を消費するものではなく、我々の体をメンテナンスする大切な時間です。皆さんが健康にぐっすり眠れるよう、お力になれればこれ以上の喜びはありません。睡眠に関してお困りのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
・ Hirshkowitz M, et al. National Sleep Foundation's sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health. 2015;1(1):40-43.
まとめ
- 7〜9時間の睡眠時間を確保しましょう。
- 睡眠不足は肥満、糖尿病、高血圧を悪化させます。
- 睡眠時間確保は健康の第一歩です
