いびき・睡眠時無呼吸症候群に対するレーザー治療について

1. はじめに

 いびきや睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠の質を損ない、健康に深刻な影響を与えることがあります。もしSASを発症しているのであれば、8時間眠っても、体は全く休まっていないでしょう。では、いびきSASはどのように起こるのでしょうか?
 我々は眠るとき、筋肉がリラックスします。すると、舌の根本がのどの奥に落ち込み、空気が通る道が狭くなります。その狭い道を勢いよく空気が通るので、周囲の脂肪などが振動し、いびきの大きな音が生まれるのです。その音は犬の鳴き声と同等という報告もありますので、毎晩枕元で犬が吠えているシーンを想像すると、快適な睡眠とは程遠いことが理解できますね。

  そして、睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に呼吸が止まることでいわゆる酸欠状態になり、様々な体の不調を引き起こす病気です。とても恐ろしいことに、重症のSASを発症している方は、心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクが高まるほか、高血圧、糖尿病、緑内障、勃起不全等を悪化させることもあり、適切な検査・治療が大切です。さらに厄介なことに、重症SASであっても、自分で眠気や不調を感じない方がしばしばいらっしゃいます。もしご自宅や旅行先などで「大きないびきをかいていた」、「寝ている時に呼吸が止まっていた」といったことを指摘された場合は、一度医療機関へご相談されることをお勧めいたします。自宅で出来る睡眠の検査を実施し、精密検査すべき状況なのか、それとも経過観察で良いのか判断をすることができます。

 さて、最近、いびきやSASの治療法の一つとしてレーザー治療が注目されていますが、必ずしもメリットだけではなく、デメリットも存在します。そのため、その効果やリスクを正しく理解することが重要です。この記事では、レーザー治療の仕組み、適応、効果、リスクについて、分かりやすく解説します。

2. レーザー治療の仕組み

 レーザー治療は、特別な光を使ってのどの柔らかい組織に熱を加え、変形させる方法です。これにより、のどの空気の通り道を広げ、いびきや無呼吸を減らすことを目指しています。具体的には、喉の組織を焼灼し、縮ませることで、空気がスムーズに流れるようにします。

3. 適応症

 では、どんなケースだとレーザー治療がお勧めなのでしょうか。適応されるケースの代表例は次の通りです。

  • いびきが主な症状の場合:パートナーや友人からいびきを指摘されたり、自分の生活の質を低下させている場合。
  • 他の治療法が効果を示さなかった場合:生活習慣の改善や他の治療方法による改善効果がなかった場合。
  • 重度のアトピーや歯の欠損がある場合:CPAPやマウスピースの装着が困難な場合。


4. 効果と限界

 レーザー治療は、施術が短時間で終わり、入院の必要がないため、患者さんが感じる負担は小さいでしょう。しかし、複数の研究によると、LAUP(レーザー口蓋垂軟口蓋形成術)の手術効果は23%程度とされており、44%は悪化することが指摘されています。また、瘢痕形成(傷跡ができること)や再発の可能性もあり、これらの問題からLAUPの効果には限界があります。具体的には、LAUPを受けた患者さんの中には、施術後に呼吸状態が悪化した例もあるようです。また、実際に健康寿命を伸ばす効果があるのか、心筋梗塞や脳梗塞といった併発症を抑える長期的な効果があるのか、といった点はまだ明らかではなく、慎重な評価が必要です。

 これに対し、CPAPはより確実な無呼吸の制御機能や合併症の抑制効果が示されており、体に一切メスを入れない治療法です。こういった背景も踏まえ、日本呼吸器学会は重症SASに対して、CPAP療法を第一選択治療としています。根治という言葉は魅力的ですが、逆に言えば、不可逆的(元に戻ることがない)変化を体に与えるということですので、慎重に判断する必要があります。もしいびき、無呼吸に対してレーザー治療等をご希望される場合は、当院は睡眠の専門医が常勤している大学病院や基幹病院へご紹介いたします。いずれにせよ、睡眠時無呼吸症候群に対する治療経験が豊富な耳鼻咽喉科・頭頚部外科の専門の医師へご相談し、判断することがベターであると考えます。


6. まとめ

 いびきや睡眠時無呼吸症候群に対するレーザー治療は、効果が期待される一方で、すべての患者に適応されるわけではなく、リスクも伴います。特に、無呼吸の悪化や瘢痕形成のリスクがあるため、患者さんは是非しっかり診察をお受けになり、耳鼻咽喉科・頭頚部外科の専門医や睡眠の専門医と相談しながら治療法を選択することが重要です。

 また、生活習慣の改善や体重管理といった他の治療法と組み合わせることで、より良い結果が得られる可能性があります。睡眠に関する問題に悩んでいる方は、ぜひ専門医に相談し、自分に合った治療法を見つけることをお勧めします。


【参考文献】
・Sleep 2010; 33: 1396-1407
・J Clin Sleep Med 2009; 5: 263-276
・Sleep 2017; 40