その睡眠グッズ、本当に大丈夫?
皆様こんにちは。
近年睡眠に関する関心が高まっており、睡眠に関係するヘルスケア市場は拡大傾向にあります。
しかしながら、本当に睡眠の質を上げるかどうかを証明する根拠はあまり多くないのが実情です。
衣服等であれば、効果が大きくなくとも有害ではないですが、睡眠時無呼吸症候群に関する機器については注意が必要です。
先日、私の外来で、患者さんからご質問をいただきました。
「先生なんかね、クラウドファンディングでCPAPみたいな製品があるんだけど、これってどうなの?」
その時私は初めて、睡眠時無呼吸症候群治療機器として、CPAP以外の換気補助デバイスを拝見しました。
睡眠時無呼吸症候群に対する治療デバイスとして、現代の医療においてはCPAPという治療機器を用いることが一般的です。
CPAPについてはその有効性が多くの臨床研究で示されており、当院でも数多く処方しております。
実際にCPAPを適切に着用されている患者さんは、心筋梗塞や脳梗塞を発症するケースが極めて少なく
先人たちが示した研究結果に合致しているなと感じております。
さて、その製品についてですが、小型のファンが搭載された機械を鼻にテープで装着するようです。
「医療機器ではありません」という表記があるものの、CPAPとの対比構造をページ内で示しており、医療機器であると誤認される表現をしていると感じます。
実際に支援者の方のコメントを拝見すると、OSASやいびきに悩まれていることが記されており、藁をもすがる思いで購入されているのでしょう。
さて、その性能についてですが、残念ながら根拠となる臨床研究のデータが示されておらず、また医療機器製造販売許可についても掲載されておりません。
当該製品については医療広告ガイドラインや関連法令に抵触する恐れがあり、何より睡眠にお困りの患者さんが適切な治療を受ける妨げになるものと
感じております。
医療機器の製造、販売においては、品質管理等が滞りなく実施できるよう、必要な知識・資格を有した管理者の任命が義務付けられております。
インターネットを用いて色々な製品を購入できることはとっても便利ですが、医療についてはその安全性を担保するために法的な規制が数多くございます。
これって大丈夫かな?と思ったら、ご購入される前にお近くの医療スタッフへご相談されることをお勧めいたします。
いち医療者とし、根拠の示されていない睡眠グッズで健康被害が出ないことを心より願っております。
当院では睡眠に関してお困りの患者さんに対して、ガイドラインに則って診療を行います。
お困りのことがございましたら、お気軽にご相談くださいね。
最後に当該製品について、問題点等をまとめましたので、お時間がおありでしたらご覧ください。
1.話題の鼻腔デバイス「UPAP」とは
クラウドファンディングサイト 販売されている「UPAP」は、鼻の穴に装着し小型ファンで空気を送り込むことで“いびきや無呼吸を改善できる”と宣伝されています。ページ上ではあたかも医療用CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)の代わりになるかのように読める表現も見受けられます。しかし、公開情報には①臨床試験データ、②医療機器としての承認番号、③専門学会での検証報告――いずれも記載がありません。
2.標準治療であるCPAPが担う役割
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は、睡眠中に咽頭が繰り返し閉塞し血中酸素が低下する病態です。重症例の第一選択は CPAP であり、陽圧で気道を終夜開放し無呼吸そのものをほぼゼロに抑えます。CPAPを継続使用した患者は、心血管イベントと突然死のリスクが有意に低減することが複数の前向き研究で証明されています。最もインパクトのある研究結果によれば、重症かつ無治療であった場合、8年後に40%方が死亡したと示されております。
3.“効かない機器”に置き換えた時に起こる健康被害
- 心血管死亡リスクの急上昇
- 高血圧・心不全・脳卒中の進行
断続的な低酸素と覚醒反応で交感神経が過剰に働き、夜間~早朝の血圧が下がらなくなる“non-dipper”型高血圧が出現しやすくなります。これが長期に続くと心筋肥大や心不全、脳血管障害の土壌になります。(ランセット) - 突然の睡眠中断による日中事故リスク
眠気・集中力低下は自動車事故や労働災害の主要因とされ、OSA未治療者の事故率は健常者の数倍に及びます。 - 代謝・精神面の悪化
インスリン抵抗性の増加、抑うつ・認知機能低下、がん死亡率上昇を示唆する報告もあります。(PubMed)
☆UPAPのような未検証デバイスを用いる最大のリスクは「効かないこと」ではなく、「治療されたと誤解して本来必要な診断・治療が遅れること」にあります。
4.もし「いびき」や「呼吸停止」を指摘されたら
- 医療機関で診察及び検査を受ける
自宅簡易検査や終夜ポリソムノグラフィで重症度を正確に判定します。 - エビデンスに基づく治療を継続する
CPAP・マウスピース・減量・外科治療など、根拠が明確な方法を医師と選択しましょう。 - 市販ガジェットは“補助”と考える
医療機器認証と臨床データを確認し、不明な点は薬剤師や医師に相談を。
5.まとめ
- 「UPAP」は医療機器としての承認も臨床成績も提示されておらず、CPAP療法の代替にはなり得ません。
- OSAを放置すると心血管死亡リスクは2~5倍に跳ね上がり、生活習慣病や事故の危険も増大します。
- “手軽なガジェット”に飛びつく前に、まずは専門医の診断と確かな治療で、大切な睡眠と命を守りましょう。
(本記事は一般的啓発を目的としています。個々の症状や治療に関するご質問は、必ず医師へご相談ください。)